生まれ変わる

2013.4.30
文・写真:飯名尚人

衣装の話になった。
「大野さん、白塗りするときと、しないときって、何か違うんでしょうか?」
舞踏の研究家が聞いたら怒り出しそうな質問であるけれども、聞いてみた。大野さんは回答として次のような話をされた。

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「昔はね、私たちは黒塗りしたんですよ。体を黒く塗って、油を塗ってね。そうすると筋肉がはっきりみえて強そうになるんです。その当時、海外の踊りが日本に入ってきましてね、もう彼らの肉体というのはすごいんですねぇ。それで私たちも負けじとね、黒く塗って踊ってた。三島由紀夫なんかもね、ああやって体を鍛えてましたね、きっとあれも外国に負けじとやってたんじゃないかとね。しばらくして、土方が秋田に帰るって言い出しましてね、帰ってしまった。それで何年かして帰ってきますとね、彼は稽古場にきて、腹減った、腹減ったっていうんです。どうしたんですかと聞くと、秋田には食べるものがない、って言うんですよ。見ると、もう痩せてしまっていて。それで白塗りして踊ったら、骸骨みたいだ、って評論家がおっしゃった。大野一雄は戦争でニューギニアにいて、終戦を迎えて船で帰国したわけです。そうすると途中で仲間がどんどん死んでいく。病気とか餓死もあったでしょう。死体をそのままにできないですから、水葬するんです。海に流す。大野一雄はうちに帰ってきたときに、こう言ったんです。私は死んで帰ってきました、と。そう言ったんですねぇ。それで、その仲間のレクイエムでね、クラゲの舞踏というのをやったんです。私はですね、リアリストなんです。あの2人(大野一雄、土方巽)みたいに夢の話ばっかりしていられなかったんですよ。あの2人はもう夢ばっかり見ていましたからねぇ(笑)。私は夢ばかり見ていられなくてね、もういつもね、いろいろ考えないといけなかったんです。ですからリアリストでしてね。白塗りして踊るとき、私は赤ちゃんになるんです。生まれ変わる。ですから「生」なんです。それでね、劇場で行われていることよりも、外で起こっていることのほうが狂っているといいますか、そういう時代になってきました。ですから、劇場で何をやったらいいかと、私もね、考えるんです。生まれ変わる、というね、生の踊りです。」

大野さんの白塗りの意味は、土方巽、大野一雄に対してのささやかな(否、結構大きな)反撃でもあって、もちろんそれは仲間意識のようでもあり、敬意でもあるような不思議な感覚であった。

舞踏のイメージは白塗りにスキンヘッドだろう。大野一雄も土方巽も白塗りはしたけどスキンヘッドにはしてないな、とふと思う。大野慶人は白塗りでスキンヘッドだ。世の中の舞踏のイメージは大野慶人さんのスタイルが反映されているのかな?僕は「なんでスキンヘッドなんですか?」とは質問しなかった。

「稽古は、ここを使って頂いて構いません」と言われた。そういうわけで、大野一雄舞踏研究所で「忍ばずの女」のリハーサルができることになった。