2022年7月26日〜9月2日
 
プロジェクト科目 映画祭プロジェクト
 

 映画祭プロジェクトは、東京造形大学 プロジェクト科目のひとつとして開講されています。国際ダンス映画祭、DANCE AND MEDIA JAPANの協力の元、学生たちがオンライン映画祭を実施し映像作品を公開します。

 今回の学生たちへのプロジェクト課題は以下の通りです。
・オンライン映画祭を実施する
・映像作品を作る、もしくはキュレーションする
・分数、ジャンルは自由
・1人1ページのWEBページの中で、他者を交えた企画を立てる(対談、鼎談、批評など)


 
授業コンセプト
 
 COVID-19の影響で、一時期は映画館が閉鎖され映画を観ることができなくなった。というわけでもなく、我々は映画館に行かずにいつでも映画を観ていた。インターネット上では無数の映画が配信されていて、映画館がオープンしていた頃からもオンライン映画を楽しむ文化は形成されていたし、その便利さも理解していた。オンラインで観る映画の鑑賞方法には課題も多くある。観る側の課題である。途中で観るのをやめてしまうことや、倍速再生で観るなど、映画を作る側としては不本意な見方を鑑賞者がする。しかしそれは鑑賞者のアイディアだし、映画の新しい楽しみ方ともいえる。どっちがいいのかはマーケットが決めることだ。この映画祭プロジェクトが授業として始まったのは、2020年4月からなので、大学でも遠隔授業が導入された時期である。もともとのシラバスでは、学生たちが作った映画や、学生たちが集めた映画を映画館を借りて上映する授業として立ち上げた。ところが映画館を借りることができず、学生を街に呼び集めることも難しくなった。そこでオンライン映画祭という様式に舵を切った。

 2003年から続くDANCE AND MEDIA JAPANの国際ダンス映画祭は、毎回会場でダンス映画を上映する映画祭だったが、2020年に初めてのオンライン映画祭を開催した。予想以上に視聴者が集まった。いつもであれば、東京のどこかの会場で少ないキャパで上映していたものが、オンラインで開催したことで、地方から、海外からのアクセスが多く、一気に視聴者数が増えた。とある一箇所に大人数が集まる連帯感の重要性もありながらも、インターネット上での人の繋がりも無視はできない時代となった。であれば、インターネット上のコミュニティを丁寧に形成してオンライン映画祭を開催することで、少なくとも「映画は継続できる」という結論となった。

 このプロジェクトでの学生のミッションは3つある。①自分で作品を作るか(映画作家としての参加)、誰かの映画作品を選出し紹介すること(キュレーターとして参加する)。②映画を配信するだけでなく、その作品の解説や批評などをWEBサイトに掲載すること。③SNSを使って広報すること(PR)。本来一番やって欲しいことは、誰かの作品を発掘するキュレーターの立場でその作品やその作家を紹介することであるが、美術大学の学生たちのモチベーションは自ら作品を生み出すことなので、受講するほとんどの学生は自分の映画作品を作ることを選ぶ傾向にある。その際、自分の映画をただ配信するだけでなく、その作品について誰かを対談したり、誰かに観てもらい批評文を書いて頂いたりすることを課題としている。自分の映画をきっかけに対話が始まることを目指す。映画を作る人は、映画を観る人でもあり、映画を通じて世の中のこと、生活のこと、人間のこと、自然のことを対話する人でもある。画質が綺麗な映像を作ることではないし、こうやって作ると映画っぽくなるよ、ということでもない。
 
 今期は「( )と( )を巡る映画祭」とした。学生たちには、この( )の中の言葉を自由に入れて、映画作品のテーマとすることを課題とした。ロシア侵攻が激しくなり、世界に緊張が走った時期でもある。(ウクライナ)と(ロシア)、(西)と(東)、(平和)と(戦争)、(不安)と(焦燥)、(嘘)と(真実)、(肉体の強さ)と(精神の弱さ)。( )と( )というのは、つまりバランスと関係を映画で示すことである。人間関係というのは目には見えないが、あたかも目に見えるかのように扱っている。関係や繋がりという目に見えない(人)と(人)の間にある線を映像にすることを学生たちに課した。(私)と(あなた)という身近なところから始める学生も多い。それでいい。( )と( )の「と」が映画ではモンタージュという。何かと何かを繋ぐことで新たな意味が生まれる。ショットとショットは衝突して新たなイメージが幻出する。セルゲイ・エイゼンシュテインのモンタージュ論である。映画は、時間を繋ぎ、意図的に分断させ、切り貼りを繰り返すことでドラマが生まれる。モンタージュの作業をすることで、(私)と(あなた)の繋がりが見えてくるはずだ。
 
授業担当:飯名尚人(東京造形大学 映画・映像専攻 准教授) 
 
 
 
過去の映画祭プロジェクト