森を巡る映画祭
出演
中元心音
撮影
塩原雅楽
録音
鈴木旺夏
撮影地
東京造形大学内の森
脚本・監督・編集
塩原雅楽
ヘッドホンで聴いている音楽。いつもは楽しいはずなのに、今日はなぜだかノイズばかり聞こえる気がする。
外は何もかもがうるさい。車。電車。飛行機。横断歩道。笑い声。赤ちゃんの鳴き声。どこへ行こうと付き纏ってくるよう。
森。緑が辺りを囲んで、つつまれていく。不思議といやな感じはしなかった。
あたりは生きているかどうかなんてわからない、触っても。
声を出すわけじゃない。熱もない。だけど、ジャックを差したとき、音がした。
あれは、命だったと思う。
きっとそれは、私にも言えることだ。
森は話さない、ただ聞かれるのを待っている
耳を澄ませてはいけない。差し込むんだ
ジャックと森と命
イヤホンジャックは、音(命の記憶や存在)に触れる手段として描く。刺す行為は、単なる再生ではなく,命に触れるまたは「命を回復させる」ような行為。
/ジャックを苔の上に差すと、はじめて“それ”が呼吸していると気づいた。静かな脈動。温かさではなく、音がそこにあるということが、命の証だった。
音がある=命がある、という思想。音が消えたら死、ではなく、「聴く人がいなければ命は閉じたまま」という相互関係である。
/ジャックを刺して耳を澄ませる。それは“その存在”が、生きていた証。音を聞くことでしか、命がそこにあったことを自分は信じられなかった。
ジャックとコードは、生命維持装置のように描写することもできる。それは心臓の音を運ぶ血管であり、命の「記録装置」でもある。
/朽ちた倒木に差し込むと、ジャックの先から小さな振動が伝わった。それは鼓動だった。もう止まったはずのものが、一瞬だけよみがえるように。
現代的なイメージで、森は命の記憶や情報が詰まったサーバーのように存在し、ジャックを刺すことで、その一部を読み取る行為に変える。
/森の中では、すべてがどこかに繋がっている。ジャックを差せば、木の根を通ってどこかの命の記録に触れることができる。それは死ではなく、眠っているだけの命だった。刺す行為は、単なる音の再生ではなく,命に触れるまたは「命を回復させる」ような行為に近いようなものになる。
About
この体験の中で主人公が気づきはじめるのは、「聞こえる」という現象そのものが、単なる物理的な音の受容ではなく、存在との交差点であるということである。イヤホンジャックを通して聴く音は、単に自然のサウンドとして消費されるものではなく、自らの身体を媒介にして、他者、それは木であり、虫であり、風であり、あるいはすでに失われた何かでさえあるものと接触するための、微細な橋渡しとなっている。
このとき、ジャックを差し込む行為はまるで対話のようであり、また一種の問いかけでもある。それに応えるようにわずかに鳴る「音」は、自然が主人公の存在を受け入れた合図であり、対話の始まりを告げる合図でもある。たとえば、倒木に差し込んだときに聞こえる低くうねるような響きは、その木が辿ってきた時間の厚みを持っており、風で削られた石の表面に触れた瞬間に微かに伝わる反響は、地中深くに眠る水脈の声かもしれない。
この行為において重要なのは、「言語を必要としない対話」であるという点だ。主人公は意味を解読するのではなく、意味の前にある「気配」を受け取ろうとする。その気配こそが命の共振であり、まさに人が自然と共に在る感覚、共鳴し合う実感である。私たちが忘れがちな「聞くこと」の本質それは相手を理解することではなく、まずそこに“いる”という事実を認めることなのだ。
そしてこの描写は、やがて視聴者自身にも問いを投げかける。日々の生活において、果たしてどれほど私たちは「聴いて」いるだろうか。イヤホンを通じて流れるのは情報ばかりで、隣にいる誰かの呼吸や、足元で揺れる草のさざめきを私たちは見落としていないか。そのことに気づかせるために、主人公の行為はある種の象徴となる。耳を澄ますということが、ただの受動的な行動ではなく、世界と関係を結び直す能動的な営みであるということを、この静かな旅路は静かに、しかし確かに語っている。
最終的に、イヤホンジャックは自然の「声」を聴く装置である以上に、主人公自身の内なる静寂を聴き取るための装置へと変容していく。外部から受け取る音と、自分の中に響く記憶や感情とが混ざり合い、ひとつの音像となって広がる。その音像は、命と命のあいだをつなぐ繊細な共鳴であり、そこには確かに、聴くという行為を通して世界に触れ直す希望が息づいている。
02.
PROFILE
監督 塩原 雅楽
2005年2月生まれ 東京都出身
https://www.instagram.com/garaku2040/
普段は映像撮影、制作、編集を主に活動している。趣味は写真撮影動画視聴
2023
『起動哀楽無』16㎜フィルム・課題作品
『自画像』ショートフィルム・課題制作
『数年越しの初めてと、これから』ドキュメンタリー・課題制作
2024
<撮影協力>
『よだかと時間の特異点』小泉ケイタ 撮影助手
『星の花火』小泉ケイタ 機材照明・撮影助手
『あの頃を追いかける』ショートフィルム・課題制作
舞台『御社のチャラ男』 かみむら文庫 撮影編集