音楽を巡る映画祭
私にとって、音楽は傘である。
傘を差している時の空間は、イヤホンで音楽を聴いている時の空間と似ている。ものによって、物理的な距離や心の距離など、その人のその時のパーソナルスペースが表される。ひとりの世界に入ることもできるし、誰かと共有することもできる。何気なく音楽を聴く時につけるイヤホン。雨が降っている時に差す傘。ほぼ無意識につくられる、ひとりの時間・空間。2人で片っぽずつつけてお互いに好きな音楽を共有する時のイヤホン。恋人との相合い傘、傘を忘れた日に一緒に入れてもらった友達の傘。ものを介してつくられる誰かとの時間・空間。
さらに、音楽を形で表すならば丸だ。音楽を聴く媒体には、丸が多く使われている。レコード盤、カセットテープ、CD。どれも丸く、回る。そして、回るといえば音楽だ。始まりと終わりがあって巡ることができる。傘も開けば丸いし、クルクル回せて、音楽と似ている。
本作品は、『雨に唄えば』(ジーン・ケリー&スタンリー・ドーネン、1952)の有名なシーンから、着想を得た。「雨に唄えば」をタップダンスを踊りながら歌うシーンである。このシーンの最後、ジーン・ケリー演じるドン・ロックウッドが通りすがりの人に自分の傘を渡す。私は、彼がなぜ傘を渡したのか、とても気になった。このシーンにおける傘の役割、それはなんだろうか。私は、過去と未来を繋ぐものだと考えた。あの通りすがりの人は実は、過去から来たドン・ロックウッドで、彼は彼自身に傘を渡し、繋いだのだ。私は、そのように見えた。あのシーンでは、「雨に唄えば」が歌われている。つまり、あのシーンさらには彼自体が曲、音楽になっている。曲、すなわち音楽には、始まりと終わりがあって、巡るものであり、巻き戻したり早送りしたりできる。巻き戻したり早送りしたりできるということは、曲の中で過去に戻ったり未来に行ったりすることと繋がる。本作品は、この空想を元に制作した。
『となりのトトロ』(宮崎駿、1988)でも傘が象徴的に使われている。特に、サツキがトトロに傘を貸すシーンでは、傘と音楽の関係が表されている。このシーンで扱われる傘をトトロ的傘の活用法とでも名付けたい。トトロは、傘にあたる雨の音を音楽として捉え、楽しんでいる。傘は雨の力を借りることで、CDのような音楽を流す媒体になる。
傘を差して、雨音を聴こう。時には雨に濡れ、全身で音楽を感じよう。
出演・撮影
一色 咲良
出演・撮影・編集・監督
飯田 舞
01.
TRAILER
02.
PROFILE
飯田 舞
©︎由良千咲
茨城県出身。2023年現在、東京造形大学造形学部デザイン学科映画・映像専攻領域2年。日常生活を送る中で、自分の目を通して発見したことや感じたこと、気づきを作品で表現したいと思い制作に取り組んでいる。これから、劇映画やドキュメンタリーに、更に挑戦していきたい。
2022
『晴』16mmフィルム・課題作品
『1日と、あっ』自画像映像・課題作品
『幸せな暇つぶし』ドキュメンタリー・課題作品
2023
『ただいま』ショートフィルム・自主制作
「映画・映像専攻領域 有志展」グループ展・上映会