アダム・バーリングの手紙

アダム・バーリングは、愛するパートナーと幼い娘と共に、州南部のルーカストンという小さな町で暮らしています。
アダムは、地元のヒューオン渓谷やウェルド渓谷をはじめとする、タスマニアに残された原生林の保護を訴えている活動家です。彼はまた、木材チップ産出の中心地である州南部のヒューオンビルという町で、ヒューオン渓谷環境センターも主宰しています。センターはボランティアによって運営されており、なごやかな雰囲気の中、定期的な上映会の他、募金活動や「ミュージックナイト」などが催されています。
2004年の暮れ、ガンズ社は会社の名誉毀損のかどで630億豪州ドルの賠償請求とともに、環境保護活動家や団体を訴えました。
その被告の数は20におよび、彼らは「ガンズ20」と呼ばれています。

アダムは被告7番とされ、また彼が主宰するヒューオン渓谷環境センターは、被告17番となっています。

「ガンズ20」についてもっと詳しく知りたい方はコチラをご覧ください。(英語)
http://www.gunns20.org/

タスマニアの森にとってのブラックフライデー(魔の金曜日)

アダム・バーリング

2005年5月13日金曜日、オーストラリア首相ジョン・ハワード氏と、タスマニア州知事ポール・レノン氏は、タスマニア州の森林に関する連邦自由党政府の政策発表の場で、党派を越えて協力し合っていくことを表明しました。このタスマニアの森林に関する政策は、その発表が長い間待ち望まれていました。
この日の会見は、スティックス渓谷のそびえ立つユーカリの森の中で行われました。ここへは、大勢の報道陣や、オーストラリア建設・林野・鉱山・エネルギー労組(CFMEU)のメンバーを詰め込んだバスがやって来ましたが、その中に自然保護派の人間は一人として見当たりませんでした。

このハワード氏とレノン氏は、緑の党の党首ボブ・ブラウン氏が言うように、もともと「破壊のソウルブラザーズ(盟友)」となる運命でした。それは、彼らがたくさんの公約を破り(意外ですか?) 、何万ヘクタールものオールドグロース林をブルドーザーやチェーンソーの犠牲に供し、オーストラリア社会の期待に背を向けているからです。

タスマニアで保護価値の高い森林のうち、数千ヘクタール分もの保護計画が消え失せてしまいました。つまり2004年10月に行われたオーストラリア総選挙の際、自由党は17万ヘクタールの森林を保護すると公約したにも関わらず、実際にはそのうちたったの5万8000ヘクタールだけが、伐採からの基本的な保護を与えられた公式保護地区となったのです。残りの約60%は、非公式な保護地区を寄せ集めたものとなりました。これらは保護地区と呼ばれてはいますが、実際には何の保護も施されていませんし、そもそも初めから伐採など行われないような土地だったのです。

政府が現在までに実施しているのは、公式・非公式の両方を混在させた部分的保護です。これは、タスマニア北西部に位置するターカイン地区の森林のうち7万3000ヘクタールと、南部に位置するスティックス渓谷の森林のうち1万3000ヘクタールに及びます。一見したところ、これは大勝利のように見えるかもしれません。
しかし、この保護地区ではいまだに採掘が行われています。また、リゾート開発のような大規模開発も許可されているのです。野党である労働党は昨年の総選挙の際、この地区に対し、世界遺産地域や国立公園として最高の保護措置が施されることを保証すると公約しました。しかし現状はまったく正反対です。一方で、伐採すら出来ないような、切れ端のようにごく小さな森が、ブルーティアーズ、ウィランタ、イースタン・ティアー、北東高地などで保護地区と認定されました。

タスマニアの深南部に位置するウェルド渓谷のような森林は、これまで保護の観点からは見落とされてきました。ここはハワード首相が公約の中で触れた土地であり、また選挙後には連邦政府の閣僚たちも、保護に値する渓谷だと言明した地域です。
ウェルド渓谷には背の高い森林や自然のままの川が現存しており、世界遺産委員会からは国際的に重要な場所だと認識されています。また、タスマニア公園・野生生物局はこの地域の保護を訴えています。しかし、この偉大な森は木材チップ業者の餌食になろうとしています。そうなれば、ウェッジテイルドイーグルやイースタンクオールといった、希少で絶滅の危機に瀕している動物たちがチェーンソーの脅威にさらされることになるのです。


「1080(テン・エイティ)」を私有地で使用することを止めさせる公約も、消えて無くなりました。この1080という毒薬が野生生物に与える影響に対し、恐怖感が広まっているにも関わらず、ハワード政権は単にその使用を「減らす」と約束しただけです。
アメリカでは既に1970年代から1080の使用が禁止されています。また、タスマニアを除くオーストラリアのすべての州では、その使用が非常に厳しく取り締まられています。しかしタスマニアでは、毎年何千ものワラビーやポッサムやパディメロンが、1080によってじわじわと苦痛を与えられながら殺されています。現在タスマニアでは、野生動物によって作物に被害を受けていると申し出れば、誰でも1080を入手することが出来ます。

オールドグロース林の皆伐(かいばつ)を削減するという約束は、良いことのように聞こえます。しかし、その代わりに何が実施されるかを知ったら、そうは思わないでしょう。
タスマニア州では毎年2万ヘクタールの天然林が伐採され木材になっていますが、そのほとんどが皆伐によるものです。「皆伐」とは、すべての木を残らず切り倒す、時代遅れで残忍な方法です。そこに暮らすあらゆる野生生物は、強制的に生息地から追い出されるか、殺されるかのどちらかをたどります。
ハワード首相は、オールドグロース林の皆伐を2010年までに現在の20%まで削減すると公約しました。そして残されたオールドグロース林は、森林局が「アグリゲート・リテンション(集合囲い地)」と名づけた新しい方法で処理されます。実はこれ、木立を少し残しただけの皆伐なのです。つまり、ゴルフ場のコースのようにあちこちに木々を円形に残して、その他の部分を皆伐するのです。新しい方法といっても、木や動物にとっては、なんの違いもありません。

そのうえ「オールドグロース林の竃(かまど)」を承認することが、皆伐に関する公約の中にこっそりと書き添えられました。つまり州東部で禁止されたにも関わらず、南部では天然林を燃料として利用する火力発電所がハワード政権によって承認されてしまったのです。
これは「再生可能エネルギー義務目標(MRET)」に基づいて実施されます。自由党政府はこのMRETの中で、太古から生きてきた天然林を、太陽エネルギーや風力といった再生可能なエネルギーと同様に分類して、この森を薪(たきぎ)とすることを許可しています。この天然林を食い荒らして作られる電力は、「クリーンでグリーンな電力」として、海をはさんだビクトリア州の消費者たちに売却されるのです。

皆伐計画に対しては、2010年までゴーサインが出ています。2010年とは、ハワード政権が、天然林をプランテーション(植林地)へと転換する活動期限として定めた年です。そうこうしている間にも、かつてはオールドグロース林が存在した土地に、プランテーションが猛スピードで拡大していくのです。

今回、タスマニアの森に脅威をもたらす法案に、2億5000万ドルの予算が付きました。(そのうち200万ドルは広告宣伝費用。) ハワード首相とレノン州知事は、この法案を「コミュニティ・フォレスト・アグリーメント (コミュニティ森林協定) 」と名づけました。しかしこれは、地元コミュニティとの話し合いを持たずに決定されたものです。また、約15の環境保護団体とも、話し合いを持たずに決定されたものです。(これらの団体は、国立公園の中でも、保護の必要度が高い24万ヘクタールの地区の完全保護を求めています。)
「破壊のソウルブラザーズ」は、この「コミュニティ・フォレスト・アグリーメント」がタスマニアの森林に関する論争を終わらせるだろうと発表しました。しかしそれは間違いです。この法案は侮辱そのものです。この法案は、納税者からの助成金を1980年代初頭から既に5億ドルも受け取ってきた、とある一企業を支援するためだけに存在するのです。

 

翻訳/原田カヅ子