スティックス渓谷のオールドグロス林を背景にハワード首相は、「これは木材業界にとって、業界の就労者にとって、産業への投資家にとって、タスマニアの州民にとって、そしてオーストラリア国民にとって、まさに歴史的な瞬間です」と、みずからの森林政策を自賛した。なるほど、業界、労働組合の反応はおおむね好意的である。しかし、これまで保護運動を展開してきた活動家、保護グループにとっては残酷なほどはっきり明暗が分かれる結果となった。総じて、木材チップ産業からの抜本的な脱却をしめすものからはほど遠いし、オールドグロス林の開発をめぐる対立の歴史に終止符をうつものでもない。業界の権益保護がはかられている一方で、チップ産業の代替策と考えられる、ツーリズムや国立公園運営にかかわる予算計画をなんらふくんでいないからである。
皆伐についていえば、60%減少は、州政府のいわゆる「択伐」(selective
harvesting)が増えることを意味する。さらに、地形が急峻な場所では皆伐が「唯一安全な伐採方法」(レオン知事)という理由から継続される。これに対して上院議員のブラウン氏は、皆伐の全面禁止の期限となっている2010年以降も許可されるのでは、と懸念をしめし、「この森林対策もタスマニアの森林のオールドグロス林伐採をとめるものではない」と述べている。また、州政府によってすでにその禁止が発表されていた毒薬「1080」散布にしても、今回の発表では私有地に対してこれを許可している。
オーストラリア緑の党の代表、連邦議会上院議員のボブ・ブラウンは今回の発表に失望した者のひとりである。「スティックス渓谷の18,007ヘクタールの保護を(首相は)公約していたが、それが4,700ヘクタールにまで減らされている。これは選挙戦で述べていた四分の一にも満たない」。たしかにターカインは国立公園化へのはずみがつくかもしれないが、合意に言及されていない南部ヒューオン渓谷、ウェルド渓谷の森林にとっては、既定の開発計画のお墨付きを与えられたのも同然だ。州有地148,000ヘクタールの保護といっても国立公園クラスの保護を約束しているわけではないし、またこのなかには、伐採が事実上適さない森林分断地帯がかなりあり、この意味で本当に保護されるのはわずか、58,000ヘクタールに過ぎない、という見方も出されている。地域住民の苦悩はつづき、保護派の闘いもやむことがない。
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