Asia Pacific Greens Kyoto Meeting 2005 アジア太平洋みどりの京都会議 2005
http://www.nijitomidori.org/ap-greens/top

文責:原田(haradaa@azabu-u.ac.jp)

京都グリーンズの大会、タスマニアのワークショップのときの写真です。
背後に『Against』が。
zoom    

0. 日本の木材資源
界の森林面積は38億7000万ha(2000年)で、陸地面積の約29%を占めている。日本の場合は、約2515万haでこの数十年間ほとんど変化していない。日本の森林率67%は先進国でフィンランド(72%)、スウェーデン(68%)に次ぐトップクラスにある。しかし木材貿易については、日本は世界最大の木材輸入国である。1997年の世界全体の木材貿易量は丸太換算で4億6400万m3であるが、日本はその19%、数量にして8700万m3もの輸入を行っている。この輸入量は、二位のアメリカの輸入量3800万m3、イタリアの2700万m3、イギリスの2000万m3の二倍から三倍を上回っている。97年現在、日本の木材需要は1億990万m3であるが、その80%もが外材によってまかなわれている。農産物の自給率よりもさらに低い20%というレベルである。日本は温暖湿潤の気候から森林の生育に適している。森林面積の四割は人工林で占められている。この1000万haの人工林だけでも年間8000万m3を超える成長量があると考えられている。木材自給率の低さの理由としては、日本林業が産業として国際的な価格競争力を失ってしまったことがあげられる。日本の林業の不利な点として、人工林のために育林費がかかること、山地の地形が急峻で伐採作業の機械化や林道開設に制約があり生産性が低いこと、経営規模が小さく合理化に不向きであること、労働賃金が高いことがあげられる。
1. タスマニアの原生林 大な砂漠に覆われるオーストラリアでは森林面積は国土のおよそ5%にすぎない。オールドグロスと呼ばれる原生林は19世紀の英国による植民が始まった時期の8%しか残っていない。いまでも貴重な森林生態系を残すタスマニア(州面積68,000=680万ヘクタール)には、顕花植物としては世界最大の樹木(ユーカリプタス・レグナンス、ユーカリプタス・オブリキュア)が繁茂している。また、北西部のターカイン(10万ヘクタール)には、ゴンドワナ大陸時代から存続する、オーストラリアで最大の温帯性雨林地帯が広がっている。州面積の40%は国立公園、世界自然遺産、その他の保護区の指定を受けて完全に保護されている。しかし、これら保護地と同等の、あるいはそれを超える保護価値を含む原生地域は、依然として伐採の脅威にさらされている。これらの地域は、絶滅危惧種に指定されている、spotted tailed quolls, goshawks, wedge-tailed eagles, swift parrots, giant freshwater crayfishなどの動物の生息地でもある。また、先住民のTasmanian Aboriginalsの文化遺産を含む地域もある。


TWSが永久的な保護として提唱している地域:
the Styx Valley, the Tarkine, the Great Western Tiers, the North-East Highlands, the Eastern Tiers, the Tasmanian Peninsula and the Leven Valley forests

タスマニア固有の植物種:
Myrtle(Nothofagus cunninghamii), Sassafras(Atherosperma moschatum), Blackwood (Acacia melanoxylon), Celery Top Pine (Phyllocladusaspleniifolius), Leatherwood (Eucryphia lucida), and others
2.木材チップ産業 
―天然林からユーカリの人工造林へ―
【木材チップ加工業】
地NGOのThe Wilderness Societyによれば、天然林から伐採される木材の90%以上は木材チップに加工される。地元の製材所に運ばれる木材は5%に過ぎない。天然林材木材チップの世界市場のうち、三分の一がオーストラリアから輸出されている(残りは、北米とチリ、南アフリカなど)。タスマニアでは年間500万トンの、天然林材を含む木材が木材チップに加工され、おもに日本に輸出されている。これは、オーストラリアのほかのすべての州(ヴィクトリア州、ニューサウスウェルズ州、西オーストラリア州)を合わせた輸出量の二倍を超える大きさである。州最大の企業、Gunns(ガンズ)社は、その売上の70%を木材チップの輸出から上げている。機械化が進んだチップ産業がかかえる雇用数は低落傾向にあるが、家具・木工芸術品製造、造船といった、より持続可能で、安定した木材加工業に対して、州政府はほとんどサポートしていない。逆に、チップ産業には伐採用のインフラ建設などのために税金を投入しつづけている。

【植林(プランテーション)】
進国にあって、非持続可能な「皆伐」がいまだに行われ、RFA締結後過去7年間で80,000ヘクタールの私有・州有の天然林がパルプ・製材用のプランテーションに転換された。2003年の時点で222,745ヘクタールのプランテーションが存在している。世界でもっとも森林開発の激しい地域の一つとなっている。連邦政府による植林計画"VISION 2020"のもとに、オーストラリア全土の175万ヘクタールが植林地に変貌する。植林より製材用、パルプ用に木材が供給されれば、天然林伐採に歯止めがかかるといわれているが、森林破壊に対する、科学者や住民の懸念は増すばかりである。タスマニア州の場合、年間100万立方メートルのユーカリ植林が計画されている。
3. 「1080」散布

スマニア州の林業では、植樹したユーカリの苗木をまもるという名目で、野生種のポッサム、ワラビーを殺すために「1080」の毒薬が撒かれている。危惧種に指定されているbettong, quoll, wombatなどの非標的種も「巻き添え死」の被害を受けている。他の州では、「1080」の使用は、外来種のキツネから野生動物をまもるためにのみ許されている。捕食者にあたるtasmanian devils, wedge-tailed eaglesなど危惧種の野生動物も、この毒物に汚染された屍骸を食べることで「二次汚染」の被害を受けている。最近の関心として、まだ科学的に立証はされていないが、タスマニア全土にわたって感染が広がっているタスマニアデビルの腫瘍(これによりすでに三分の一の個体数が死滅した)の原因として、1080の可能性が指摘されている。「1080」に代わる代替策として、野生動物を植林地から防ぐフェンスや個々の苗木を被うカバー("socks")が有効とされているが、これらの、タスマニア林業公社による代替策は試験段階。一部民間レベルでは実施されている。

4.天然林材を原料とした火力発電所 スマニアでは世界的にも例を見ない、天然林の木材チップを燃やして発電しようという州政府主導のプロジェクトが三箇所で進行している。州南部の天然林チップを原料として発電し、Basslink経由で本土に電力供給しようという計画(政府はこれを"green power"と称している)。プロジェクトの一つ、ヒューオン渓谷に着々と建設されているSouthwood Projectでは、30万トンのチップを燃やし、50メガワットの発電を行う計画。この天然林の半分以上はオールドグロスと言われている。他に、同じコンセプトの発電所が北部にも計画されている("Circular Head Project")。
5.すべての元凶はRFA(地域森林協定)

1997年に連邦政府と州政府との間で締結されたRFAは、まったくの「政治的妥協」の産物であり、州政府や伐採企業(Gunns社)が喧伝するのとは裏腹に、民意を反映したものではない。報道機関(Newspoll社)の世論調査によれば、豪州国民の85%は、タスマニア・オールドグロスの木材チップ化に反対している(2004年1月)。RFA締結まで、タスマニアでは年間8,000ヘクタールの土地開発がおこなわれていた。しかしRFA以降これが拡大。2002年は14,000ヘクタールの土地が開発された。当初意図された自然環境、原生自然の生態学的価値を保護する目標は達成されていない。それどころかRFAのもとで州の林産業は、連邦法の「環境保護法」「生物多様性保護法」、州法の「絶滅危惧種保護法」「情報公開条例」といった、連邦/州のあらゆる法的規制から免除されてしまっている。また、RFAでは、意図的に誤った森林区分がなされたために、希少種の動植物が生息する、本来であればもっとも保護価値の高い森林が、植林用の伐採指定を受けている場合がある。

6. Gunns Ltdの収益 ンズ社の最近一年の企業収益は、1億500万豪州ドル。昨年の7400万ドルより42%アップ。経営責任者のJohn Gayは、アジア地域の木材チップ需要が堅調なことが好収益を支えている。今後は中国を中心とした製材需要が期待できる、と語った。今年のアジア向けに輸出された約500万トンの木材チップは4億2700万ドルに相当する。2002年の時点では、収益の約70%を木材チップの輸出から上げていた。ガンズ社が州政府に払う木材チップ1トンあたりの伐採権料は15ドル。同社は既に国内に10万ヘクタールのプランテーションを所有している。先月、西オーストラリアのWesfarmers社系列のSotico社より三つの製材所を買収した。タスマニアでは10億ドル相当の大製紙工場を建設する計画もある。
7. "Gunns20"
― ガンズ社、ボブ・ブラウン氏をふくむ活動家20名を相手に訴訟
年12月13日、ガンズ社は、緑の党上院議員のブラウン氏、州議会議員ペグ・パット氏、TWSのジェフ・ロー氏、活動家のアダム・バーリング氏など、20名の環境保護運動の活動家に対して、総額630万豪州ドルの損害賠償を求めて訴訟を起こした。2003年のTWS、グリーンピースによる"Global Rescue Station"というスティック渓谷で展開されたキャンペーン、木材チップの購入者である日本の製紙会社に対する「不買運動」、また木材チップ輸出港トライアバナにおける「占拠事件」などにより同社の企業活動に多大な損害をもたらしたという。"Gunns20"は、これを「言論の自由を封殺」しようという暴挙とし、ホーバートやメルボルンで大規模なデモをおこなうなど、徹底抗戦を誓っている。
8. ツーリズムは繁栄するか? 界的に観光業が凋落傾向をみせるなかで、タスマニアを訪れる観光客は伸びつづけている。一昨年は前年比20%増を記録した。州最大の<旅行業者>ともいえるタスマニア林業公社が開発したタヒューン・エアー・ウォーク(Tahune Air Walk)は、ヒューオン河沿いの原生林林冠を見下ろせる鋼鉄製の空中廻廊を呼び物にした森林テーマパーク。すでに開設一年で十数万人の訪問をみたタヒューン・エアー・ウォークは、エコツーリズムの今後の隆盛を予感させる一大成功例と考えられている。しかし州政府は依然として、林業などの伝統的な重厚長大型産業を州の基幹産業に位置づけている。したがって、地元の小規模ツアーオペレーターたちが置かれている状況はけっして楽観視できるものではない。木材を満載した大型トラックの往来、「1080」の散布、原生林にとってかわる単一樹種の人工造林、焦土と化した伐採跡地 ―。州政府の森林政策が変わらないかぎり、本当のツーリズム隆盛が訪れることはないだろう。ヒューオン渓谷やブルー・ティアー(BlueTier)など、森林開発をめぐる局地的な衝突が各地で起こっており、地元の自然環境保護のために開発阻止に立ち上がった住民の逮捕報道はあとを断たない。林業とツーリズムの共存は可能だろうか? 経済性でみるかぎり、両者は五分五分、いずれも収益は約13億豪州ドル。業界は林業による安定した雇用確保を喧伝しているが、雇用創出の見込みはツーリズムのほうが高いようだ。林業はかつて、地方都市における雇用創出を誇っていたが、現在は、ツーリズムがつくりだす働き口の半分にもならない。タスマニア林業連合会(Forestry Industries Association of Tasmania)によれば、林業による直接雇用は10,000人。一方、ツーリズムは22,500人を直接雇用している。昨年だけでも州全体で、10,000の雇用創出があったが、そのうち4,000職は観光・ホテル業だった。
   
Background materials:

http://mcgunns.com/
http://www.bobbrown.org.au/300_campaigns_sub.php?deptItemID=25
http://www.corporatewatch.org/news/loggingcompany.htm
http://www.themercury.news.com.au/printpage/0,5942,10582781,00.html
http://www.greenleft.org.au/back/2004/574/574p9.htm
http://www.greenleft.org.au/back/2004/588/588p9.htm
http://www.greenleft.org.au/back/2005/611/611p2.htm
http://www.wilderness.org.au/campaigns/forests/tasmania/ftfforewrd/
http://www.wilderness.org.au/temp/ProtectingForests_GrowingJobs_fullreport_300804.pdf
『人と森の環境学』(2004年、東大出版会)
『森林環境の経済学』(2001年。新日本出版社)