樹齢400年のユーカリの大樹林。すべてが、この1枚の沈黙の中にある。

知らぬ間に伐採され、知らぬ間にコピー用紙となり、何も知らされぬまま、私たちは使う。オーストラリア・タスマニア島で伐採されていく天然樹林は輸出用木材チップとなり、その約90%が日本でコピー用紙などの消耗用紙になる。
「1枚の写真にできることはすべてやった」という写真家・平野正樹が、あたかも何ごともなかったかのように振舞うことを強制される社会構造そのものへ、静かに問い詰める。

[会場] 全労済ホール スペース・ゼロ・ギャラリー 地 図
[日程] 2006年1月10日〜18日 10:00-19:00 最終日は17:00終了

革命、戦争、森林伐採など、人間の「行為」の直後を写真に写し取り、その「行為」を事実だけでなく真実への問いかけまでの深い洞察を許す平野正樹の写真は、「DOWN THE LOAD OF LIFE(人間の行方)」という一貫した哲学に基づいています。

「タスマニア島の天然樹の写真」と言えば、多くの人が巨大な樹木が立ち並ぶ深い森や大きな湖や滝、カンガルーやワラビーのような小動物など「ダイナミックな自然」を想像するでしょう。
しかし、平野正樹の『沈黙の森−タスマニア−』を見れば、鑑賞者の皆さんは「社会」という大きな壁にぶち当たり、それについて考えざるを得なくなります。
芸術と報道の間の表現のための方法論として、「写真」というツールを使い完成したこの作品群は、オーストラリア・タスマニア島の天然樹伐採を題材にしています。
ご存知の通りタスマニア島は海と深い森で知られる自然豊かな島です。その一方で、輸出用の木材チップのために天然樹が伐採され、森はどんどん減っているという問題があります。おそらくあと3から4年もすれば「世界遺産などで保護されている僅かな原生林以外」のほとんどの天然樹は姿を失くすでしょう。
天然樹の伐採によって作られた木材チップは、輸出され日本でコピー用紙などの消耗用紙となっているという現状。さらには、コピー用紙を購入する消費者は、どの紙が天然樹によって作られた紙かを簡単には知ることができない、という流通の構造。
こうした社会構造について平野正樹は「倫理」を問いかけます。
樹齢450年が伐採され切り株となった実物大の切り株写真は、床に展示され、鑑賞者はその切り株写真の上に乗って写真を見ることが出来ます。
「樹齢450年、タスマニアの天然樹の切り株」とだけ説明を受ければ、楽しく切り株を踏むことが出来るでしょう。しかしその切り株が「伐採され、焼かれ、コピー用紙などになり、知らぬ間にわれわれが消費している」と知れば、この写真は二度と踏むことが出来ない。

床に展示したことで鑑賞者は、写真が「見る」だけではないことを意味します。
フィジカルな体験によって、写真から真意を「読み取る」という現代美術的なインスタレーションを思わせる展示の方法は、「写真展」を観る者にとって、よりアクティブな存在にします。


主催: 国境なき写真家旅団
協力: スペースゼロ、飯名尚人、森川隆夫(NPOほっとタイムズ)
設営協力: チップストップ・タスマニア・ジャパン、佐々木清志、田川祥子、原田公、原田和子