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私の爪

スタッフ
監督、編集、撮影  ……     
対談者               ……   A.

   
 
 
 『これが私の人生です。』
 
 
 私の爪は、私自身の人生そのものである。
 
 私は爪を噛む。それはストレスからなのかもしれない。もっと言えば、漠然としている日々への不安からなのかもしれない。
 不安を抱えた人間は、どこかしら態度や言葉に表れるものだと思う。私の場合は、爪を噛むという悪癖に表れた。
 
 ただ、爪を噛むという行為は、噛み癖が爪に目に見える不安の痕跡として積み重なっていく。
 1度爪が気になってしまえば、またいじってしまいたくなる。そんな悪循環で歪になっていく不安定な感情の象徴である爪は、見るに耐えない不快なものだ。
前向きになれずに膨れ上がった不安の表れである爪が、不安を過剰に抱え込もうとする自分の内面が露出した爪が醜いと感じた。
 
 そしてある日、ふと思う。
 
 私の歪な形をした爪は、不安を過剰に抱え込もうとする自分の人生に寄り添って形を歪に変えてきているのである。
 ならば、私の爪は、私自身の日常の積み重ね、つまり人生そのものである。そう言えるのではないかと。
 
 はじめての映像作品は、自分らしさを詰め込んだ作品を作りたいと考えていた。
 自分の爪は自分の人生そのものである故に、一番自分を伝えるのに最適な題材であり、今までも現在も自分自身が向き合おうとしている私が抱えてきた不安を振り返るためには、切っても切れない存在である。
 この爪の発見と私のやりたいことの需要と供給が、気持ち悪く合致したのだ。
 
 私が日々いかに醜くつまらない人間として生きているか。そしてその日々とは何かを、爪、風景や音で再現すると共に再発見しようと試みた。
 


 

作品解説

 
映画を制作していくにあたって、自分の不安をどのように表すかを熟考することが最大の課題であった。普段の生活を振り返って、「この場面の時の私は、きっとこう考えているだろう」ということを自分の感覚に委ね、自分の脳裏に焼きついた景色を映像や音に落とし込み、それを感情として合間合間に詰めていった。このように、自然と人工物が入り混じる、一見無関係で無作為な映像や音は、あくまで私の爪を通じることで見えている内面であることを示している。
しかしながら、その内面には具体的な答えがない。それは私自身が、私の内面を理解しきれていない状態で制作をしていたからだ。不安がどうのと言っておきながら、実は細かいことを説明できないのだ。
それでも私が、そんな漠然とした内面を大袈裟に取り上げて作品にしていくのは、それがやがて、醜く、鬱陶しく、意地汚い私自身への理解に繋がることを信じているというだけの理由である。
つまり、私が作品を作るのは自己整理のためであり、そのため根底は案外曖昧だ。そしてそれは、この映像作品も例外ではなく、その方向性が映画の印象にも現れている。
呆然、妄想、失望、莞爾、そんな自身の内面の起伏を、絵画ではできない動きを伴う映像で、音で、構成で追っていくことが、この映像作品での挑戦なのだ。
 


対談

人には悪癖がある。この映画は爪を噛むという行為に焦点を当てることで不安などを表現しようとした。とは言え、私が爪に思いを馳せるようになったのは最近のことである。この対談では、A.T氏と日常会話では中々話すことのない爪や癖についての対談を行い爪や癖についての見聞を深め、自分の考えを深めていくことを意識して対話を行おうとした。

 

対談に至って

M  :対談をしようとした理由として、(A.Tさんが)この前の授業で作品に爪を混ぜているのを見て対談しようと思って対談を決めました。突然押しかけて「対談してもいいですか」と言われて「なんだこいつ」と思ったかもしれませんが、実際どうですか?
A.T:えー、対談とかやったことないから「え、そんな、私がいいんですか?」って感じでドキドキしたわ。
M  :私もちょっとドキドキしてて(笑)
A.T:まあ、大したこと喋れないかもしれないけど(笑)、よろしくお願いします。
M  :よろしくお願いします。
 

爪とおしゃれさん

M  :さっそく爪の話に入るんですけども、爪の手入れとかってしてますか?
A.T:なんか基本大雑把だから。たまにお母さんが結構そういう手入れとか好きだから、爪に塗るオイルとか、ネイルするときに甘皮取る道具とか持ってて。たまに借りたりしてたんだけど、結局絵を描いてると、すぐ絵の具だらけになって取れちゃったりとか、汚くなっちゃったりとかするから、なんかあんまり最近は手入れ全くしてない。気分上げたいなって思った時にマニキュアとかを塗るくらいかな。
M  :でも黒いネイルかっこいいなって思う。(対談当日、A.Tは黒いネイルをしていた)
爪の手入れとか私の家全然なんか気にしなくて、あるのは爪切りだけみたいな。なんか全然爪とか気にするタイプの人間がいない感じだから、爪の手入れとかする人を純粋に尊敬する(笑)。
A.T:(笑)まあお母さんだけだけどね。丁寧にやってるの。
M  :なんかそういう爪とかで何か思い出せる話とかってある?お母さんなんで爪に気を遣ってるのかなとか。
A.T:なんでだろうね。わかんない。でも爪以外にも髪の毛とかすごく手入れしてるし気にしてるし、服とかも結構綺麗なのとか着てるから、全般的に美容に興味があるのかも。私より全然ね女子力がある、お母さんの方が。
M  :爪が綺麗だとなんかすごい女子力あるなって感じするな。
A.T:ああ、わかるわかる。大学のバスとか乗ってる時も、めっちゃきれいにしてる人とか見てると「おお、おしゃれさんだね」と思うけど。
M  :そういう細かいところで気を遣う人ってほんとに几帳面な人っぽい。
A.T:わかる、憧れるわ。
 

自分の一部なのに一部じゃない

M  :それでなんですけど、作品に爪を混ぜるって元々、自分の体とかそういうのを表現するみたいな話だったじゃないですか。どうして爪だったのかなと思って。髪の毛とかでもよかった気がするし、何なら剥がれた甘皮でもよかった気がするし。
A.T:でも一応あれ髪の毛も入ってて。抜けて落ちてたやつ。その作品では、「今生きてる自分を閉じ込める」みたいなのがコンセプトだったから。爪も共に生きてきた自分の体の一部みたいな感じで。爪って長くなったら切っちゃうし、で、切った爪って捨てちゃうじゃん。(爪や髪は)捨てたらどっかいなくなっちゃうものだけど、「閉じ込めるっていう意味で、捨てちゃうものを入れよっかな」と思って爪を入れました。最初はそんなに爪にあんまり着目してなかったかな。作品にとりあえず自分の体の一部を閉じ込めたいなって思った時に爪が一番なんか身近かなぁって思ったから。
M  :剥がれやすい体の一部みたいな感じなんですかね?
A.T:あーそうだね。
M  :爪って髪と同じくらい切って放っておいてもそんなに気にしないっていう感じか。
A.T:自分の1部だけど自分の1部じゃないみたいな。不思議な感じ。腕とか切ったら痛いし生えてこないけど髪とか爪とかは生えてくる。
M  :爪ってなんか自立してる?どうなんだろ。
A.T:爪ってなんなんだろ。面白い、改めて考えると。
 

爪と痛み

M  :髪とか爪とか入れてたじゃないですか。この先作品にそういうのやるのかなと思ったんですけどどうでしょう?
A.T:えーどうなんだろう。なんか私自身あんまり(作品の)方向性が定まってないから。でもまたなんか面白いこと思いついたら使うかもしれないな。
M  :なんかでも、爪で何か作品作るって中々聞いたことがない。
A.T:確かに。切れるところも決まってるし。全部剥がすのも流石に痛いしね。
M  :爪ビリビリビリってやる拷問を今回の対談でちょっと思い出した。爪を丸ごとビリビリビリってやるのとか、ちょっと怖そう。
A.T:怖いね。だいぶ怖い。爪って全部剥がしたら生えてくるものなのかな?
M  :1ヶ月くらいには生えてるといいな。
A.T:生えてるといいな(笑)そうね、そしたら使ってあげても……いや全部剥がすのは流石に。
 

何かの反動故の癖

M  :今回の映画は噛んだ爪をひたすら映す映画なんですよ。それでふと思ったのは、他の人ってどんな癖があるのかなと思って。
A.T:ああ、癖ね私めっちゃあるよ。今は髪短いからできないけど髪の毛を巻き付けたり、あとは小さい頃からささくれを寝る前にいじるくせがあって。ささくれのところを爪でぐりって。気持ち悪いけど、なんかそういうので安心したりとか。眠い時とか寝る前とか絶対やってるから、お母さんにたまに「あ、またやってる。眠いんだねー」って言われる(笑)。
M  :安心って言ってたけど、そういうのとか関係があるのかな?
A.T:そうなのかも。なんでだかわかんないけど安心するのかな。リラックスする感じ。ああ、あとね、今は治ったけど、なんか1回すごいストレスな状況だった時に、頭の皮を剥がす癖があって(笑)。
M  :と、頭皮?頭皮を剥がすとは。
A.T:汚い話なんだけど、頭の皮をピリってはがしてそれを集めてた、一時期(笑)。
M  :なんで(笑)。
A.T:なんかよくわからないけど気持ちよかったんだよね(笑)。それででも、あまりにもやりすぎて炎症が起こって、やばいことになったから、めちゃくちゃ我慢してその癖は直したんだけど。
M  :いつ頃までだった?
A.T:中学生の時から、高校生ぐらいの時まであった。
M  :じゃあ割と最近まであった。
A.T:そうだね。
M  :どんな時に出る癖なの?
A.T:それはなんかすごいストレスを感じた時とかに、やってた、なあ。あれかも、一種の自傷行為とまではいかないけど、痛いんだよね。剥がす時に痛いんだけどやっちゃうんだよね(笑)。きもちくてやめられなくてってことがあった。
M  :頭皮を剥がすかなんか、面白いね。
A.T:面白いかね?気持ち悪いし、恥ずかしいけど。
M  :爪も噛むのも結構相当だよ。どっこいどっこい。私の場合は幼少期からもう今の今でも止めらんないっていうか。
A.T:でも友達にもいる、噛みちぎっちゃうからずっと深爪で、自分で噛むから爪切りが必要ないみたいなこと言ってる友達がいた。
M  :その子ってどんな感じだった?
A.T:その子は私と結構(境遇とかが)似てるっていうか。高校生の時にネットで会った友達で、仲良くなって遊びにいった時にその話を聞いたかな。我慢したりとか心にブレーキとかかけた時とかにその反動としてやっちゃうのかなあって思ってた。
M  :そういう癖とかってみんな何かの反動なんだろうなって。
A.T:そうだね。
M  :何かの象徴、悪い意味でって感じかな?
A.T:ああ確かに。でも、さっき言ってた髪の毛の癖はあんまり悪い感じはしない。なんだろ、甘えん坊、寂しがりみたいなところがあるから、自分で言ってて恥ずかしいけど。そういうところがあれなのかな、出てんのかな?
 

感想

M  :そうですね、じゃあそろそろ終わりにしますが、感想、ちょっとだけ。
A.T:感想?なんだろ。なんか私はあんまり爪に着目したことがなかったから「ああ、確かに爪ってよく考えると面白いなあ」って思って。今まであんまり意識してなかった部位だけど、改めてこうやって考えるのも面白いなって思った。癖も、あまりに人に頭皮を剥がすとか初めて人に言ったから(笑)。
M  :(笑)もうこういう機会じゃないと全然そういう話しない。なんか芸術関連じゃないと全然言わない。他に言うところとかあるのかなって。
A.T:確かに人によって「えーそんな癖あるの」みたいな癖とかあるかもね、意外とみんな。
M  :そうですね。では対談は以上になります。話してて面白かったです、ありがとうございました。
A.T:ありがとうございました。
 


 

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プロフィール

監督、脚本、撮影

2001年生まれ。埼玉県出身。
中学生の時に、将来は絵を描きたいという漠然とした動機から美術の道に進むことを決める。
油彩、アクリルを使った作品が多い。映像作品は今回がはじめて。
今日まで起きた人生の、人間関係に関する嫌な出来事が全部なかったことにならないかと願い続けている。来世はコケになりたい。
 
埼玉県立芸術総合高校卒業。
東京造形大学所属。
 
 
対談者
A.T
人の身体を使う表現の作品を作りたい。
ボディペイントもやってる。
今回の対談で改めて人の癖、爪について考えられて楽しかった。
 
東京造形大学所属。