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お前の光は、今、何処にある。

汲田椋太郎 佐々部創介

撮影 黒瀬賴
監督/編集 汲田椋太郎

 
 
 
 
俺は到頭、誰も嫌いになれなくなった。
誰かを憎むこともできなくなった。
恥、劣等感が、俺の心臓を食い尽くしてしまった。
暗闇。
光なんて何処にもない。
 
ごめんなさい。
 
もう、うんざりだ。
何を信じればいい。
嘘、嘘、嘘。
この世界は嘘ばかり、偽物ばかりじゃないか。
信じれば裏切られ、無抵抗は騙される。
俺も、信じてくれた人を裏切った。
何が本当か、わからなくなってしまった。
 
 
だから、俺は目に映る光を信じる。
それは、一瞬の光。
生身の光。
俺の光は此処にある。
それを信じる。
俺の光は此処にある。
一瞬を放ち続ける。
 
だから、光る俺のことを、愛して欲しい。
 
お前の光は、今、何処にある。
 
 
 
 

作品解説

 
2020年、新型コロナウイルスが世界を襲った。
感染防止のために、他者との間に約2m以上の距離を空けることが推奨された。
社会距離拡大戦略。
所謂、ソーシャルディスタンスである。
二十歳。
期待と不安をいっぱいに抱えてやってきた東京の街は、静かで、暗かった。
世界から光は消えてしまったのか。
 
僕の光は何処にあるのだろう。
 
僕は今作で、インスタントカメラ 『写ルンです』をモチーフに選んだ。
『写ルンです』には撮影に適した距離があると知ったことがきっかけだ。
「1m~1.5m」
最初は何も思わなかったが、少し経ってこれがソーシャルディスタンスの内側であることに気がついた。
『写ルンです』はソーシャルディスタンスの内側を写すのに適している。
では一体、そこには何があるのだろうか。
考えてみると、家族や友人たち、スマホやパソコン、コンビニで買った夕飯、おじいちゃんがくれたギター。それは全て僕にとって必要で大切なものばかりだった。
つまり、今ならば『写ルンです』には、僕にとって大切な光ばかりが写るはず。
僕の光は此処にあるのかもしれない、と思った。
 
もう一つ、作品の鍵となっているのが、台詞であり、言葉である。
言葉はカメラに写らない。『写ルンです』との相性は最悪かもしれない。
しかしここで重要なのは、言葉を発することよって放たれた、一瞬の光をカメラで受け取るということである。
 
現代、SNSの発達で言葉は文字になり、そして文字すらイラストやマークに変換されている。
「いいね」と感じたらハートのマークを押すように。
わずかな文字だけで、スタンプひとつ絵文字ひとつで多くを表現できるようになった。
しかし、顔の見えない相手との簡単なやりとりに慣れてしまうと、無意識に相手を傷つけていることも気づかなくなっていく。
果たして、この文字を信じていいのか。どう受け取ればいいのか分からなくなっていく。
言葉の本来もっていた重みがなくなってしまっているのではないか。
重みとは、信頼性である。
 
だから、一瞬で消えてしまう、生身の言葉に価値があるはずだと思う。
今作ではそんな言葉の重力を探るために台詞を作り吐き出す作業を試みている。
 
きっと感じるはずである。
一瞬の光の尊さと生の言葉の力強さを。

写真作品

 
 












作者より

 
邦楽ロックバンド、PEOPLE1が2020年にリリースした曲『常夜燈』にこんな歌詞がある。
 
「この世界には未来がキラキラと
みえる人もいるというの
それならば食えぬものなど
置いていかなくちゃ
例えばこんな胸の常夜燈も」
 
この曲に出会った頃、コロナのお陰で大学に行くことができずに、実家の部屋で毎日授業を受ける日々を送っていた。
これでいいのだろうか。無味乾燥。鬱屈。
答えは出ないまま、夏が過ぎた。
やっとの思いで上京した冬、しかし相変わらず大学に行くのは週に一度だけ。
気持ちは離れていくばかり。
ニュースは潰れていく店、リストラの話題。
僕は何をして生きていけばいいのか。選ぶ道は正しいのか。
両親には何も打ち明けられないまま。
蹲み込んで、俯いて、動くことができなかった。
 
こんなに生き辛い世の中でも、まだ未来に希望を持っている人もいるらしい。
それならば、自分にとっては腹の足しにもならない光でも、誰かのための光になれるかもしれない。
自分に残された僅かな希望の光を置いて行こう。
それは、暗い世界でも輝き続ける常夜燈。
 
あたたかいなあ、と思った。
とても、救われた気がした。
こんなちっぽけになった僕にも、僅かに希望は残っている。
世界には誰かが残してくれた光があるのか。
ああ、僕も誰かにとっての、常夜燈になりたいな。
それから今日までずっとそう思って生きている。
あの日も、親友にカメラを向けて、願っていた。
彼の世界が少しでも明るくなればいいな、と。

アーティストプロフィール 

 
汲田椋太郎
愛知県立刈谷北高校卒業。
東京造形大学デザイン学科映画映像専攻所属。

佐々部創介

愛知県立岡崎北高校卒業。
南山大学経済学部経済学科所属。

黒瀬賴

日本航空高等学校卒業。
東京造形大学デザイン学科映画映像専攻所属。