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MIRROR

山中美於

 
 

作品解説

 
『心の中のかみ様』
私は鏡を作品のモチーフに選んだ。
神社に鏡が祀ってある理由は諸説あるが、
「かがみ」という言葉から「が=我、エゴ」を
取り除くと「かみ」になるからだ、
すべての人の心の中にいる「かみ」様を
見つめ直すためだ、という神道の一説がある。
 
日常生活の中で人が悩むのは、
己が世界全体を循環する水の一滴に過ぎないことを自覚し、
「が=我、エゴ」が発露される時ではないかと思う。
家庭、学校、会社、社会......自分とは違う人たちの中に染まり、
調和を乱さないように役割を上手く演じている。
考えや価値観が違う集団の中には自分を肯定してくれる存在も
否定する存在もいる。
否定された時、自分という存在は全体の中の一部でしかないことを知る。
でも、この身体と心を共有できる存在は自分しかいない。
自分しかいないが、世界には唯一無二の他者が大勢いる。
自分が他者とは違うという根拠を探ろうとした瞬間、
「が=我、エゴ」が生まれる。
 
「が」の存在しない森の中に佇む私は
とても浮いている気がした。
木々は「自分は、自分は」と主張しない。
周りの空気を読んで流されることもない。
「個」として存在するのではなく、森全体を一つとして見ている。
きっと人間とは正反対だ。
 
鏡は全てのものを平等に映す。
映るものが存在しなければ鏡は鏡ではない。
森も鏡も「が」がない。
そんな中で、私は心の中の「かみ」を見つけようとしている。
 

作家プロフィール
山中美於

1999年生まれ。山梨県出身。   中学生の時、映画制作が趣味の国語の先生に、 自分の考えたストーリーを実写化してもらってから 映画に興味を持ち始める。   2018年東京造形大学 造形学部 デザイン学科 映画映像専攻入学。 劇映画、映像作品、ドキュメンタリー、PR動画などを作る。

過去作品

 
「やまみお」という名前でYouTubeに作品を発表。
https://youtube.com/channel/UCb9LjPb2FAjUNIk4MKk15WA
「ボッコちゃん」「わたしが一番きれいだったとき」「ソトガワ」など。
 
 
「ボッコちゃん」2019


YouTubeで3000回再生を突破。
星新一のショートショートを脚本化し、
大学の教室で、1人で3役を演じ、照明・美術・撮影・編集をすべて行った。
ロボット・マスター・お客の3人を演じ分けつつ
自分でカメラワークを考えることが難しく、楽しかった。
 
 
「ソトガワ」2019

自分の手や足、お腹なんかは見れるのに、どうして表情は見れないのだろう。
わたしは人からどんな風に見られているのだろうか・・・・・・。
そんな思いに雁字搦めになって、
わたしは今日も素顔を晒すことを恐れ、よそ行きの顔で
日々生活を送っている。
ぐちゃぐちゃの顔はこんなに醜くて恥ずかしいのに
絵の具を外すことはもっと怖い。
お風呂場・街・電車の中で、絵の具を顔に塗りながら自撮りをした。
 
「わたしが一番きれいだったとき」2020

茨木のり子さんの詩を私が朗読し、高校時代の友人に茨木さんを演じてもらい、映像化した。
近所の工場の跡地を見つけ、それが退廃的でフォトジェニックだと思ったこと、今のコロナ渦と戦争中の状況が、若者の美しい瞬間を奪っている点で似ていると感じたことがきっかけでカメラを回し始めた。
友人の一番輝いていたバレエを踊っていた時期と茨木さんの一番きれいだった時代のシンクロを図った。
 


対談

 
小松瑞紀
山中美於
 

絵画と映像

 
小松:こんにちは~
山中:こんにちは~
小松:今日は対談相手に選んでくれてありがとう。私は絵画専攻で美於は映画映像専攻ということで、普段は違うことを勉強してるんだよね。
山中:そうそう。
小松:ゼミで会ったのが初めてで、絵画の人と映像の人って作品に対する捉え方が違うよねって話から仲良くなった感じだよね。
山中:うん。絵画は一枚のビジュアル、映画は時間表現、全然違うからこそ面白いなと思って!
小松:そういうところあるよね、分かる分かる。
 
 
森を撮ろうと思ったのは
 
山中:私の今回の映像を見てどうだった?
小松:服が着物と洋服で変わってるのが気になった。
山中:それは別々の季節に撮ってたんだよ。
小松:へー。なんか、時間が経っても昔から森は存在しているってことを思った。森っていう概念自体は変わってないから、人の服が変わっても森というものは存在し続ける、みたいな?
山中:そうだね~
小松:あと、森って人間のスケールで見た時まばらに木や芽が生えてて規則性がないように思うけど、洋服は人間の模様があるから異質で浮いて見える。どうして森をロケ地に選んだの?
山中:「青い鳥」っていう話あるよね。チルチルとミチルが森の中で青い鳥を探すシーンが印象に残っていて。幸せは外ではなく内側にあるよっていうメッセージが、なんとなく神道の「神様は万物に宿っていて、自分の心の中にもいるよ」っていう考え方が似ている気がしたの。もともと神社ができる前は木や岩に人々が神聖なものを感じて祀っていたわけで、森を見つめれば、自分の心の中の神に共通する何かと繋がることもできるのかなって考えた。私は周りに意識が向いてしまってブレやすいから、内面を見つめたいと思ったんだよね。
小松:なるほど。
 
 
鏡というモチーフ
 
小松:鏡を森に置いてみてどうだった?
山中:木に鏡を乗せて自分の顔が映ったのを見たとき、自分が森の一部になったような気がした。まるで葉っぱみたいな?
小松:葉っぱ?
山中:うん、顔が木の枝についてる葉っぱになったような感じ。鏡は全てを平等に映すから、全てを森の一部として認めてくれるような気がしたよ。
小松:確かに、鏡って反転はするけど、周りのものをそのまんま映すよね。そういうところから発想したんだね。
山中:うん。
小松:私の感想だけど、割れた鏡の断片をいろんな方向に向けてさ、そこに映るものが変わってくシーンあるよね、それが新聞とかスマホとか、そういうものを感じた。意外と現代っぽいというか。
山中:新聞とかスマホ?
小松:情報って感じ。
山中:え~それは新しい発想(笑)なんでだろうね。
小松:すごい反射して光ってたからだと思う。光を発してるのものイコール情報みたいな。あと、鏡に映ってるものを見る行為は違う場所の情報を得ているような。新聞も全く遠くの関係ないことを知る手助けをしてくれるじゃん。
山中:なるほど、そうだね!一方で、紙媒体は保存したまま、そのまま変わらないけど、鏡は映し出すものを記録しないから、ずっと変化し続けて、絶対に留まらないものじゃないかと思う。
小松:そうだね。そういえば、私は大学に入って一人暮らしをするようになって、すごく寂しい時期があったんだけど机の上に鏡を置いてご飯を食べてたことがある(笑)人と食べてる雰囲気を楽しめるから。
山中:自分と一緒に食べてるみたいな?
小松:意外と目とか合うんだよね。目が合うとニヤッとしちゃったり。
山中:面白い(笑)それは見てみたいなあ~
小松:この映像も同じ物が鏡によってコピーされてるのがクローンぽさを感じた。
山中:クローン?
小松:こっち側の世界とあっち側の世界、すごいクローンぽいと思ったよ。
山中:なるほど、鏡っていうモチーフはいろんなことを想起させるよね。
 

 

「うつる。」

(※この作品は山中の作品によって、小松がもっていた様々な感覚が呼び起こされ作り出されたものです。)

木の増殖の最終形態が森だとすると森の中で1人の人間が鏡の前に立ち、増えているという現象はとても面白いと感じました。
鏡は写したものを視覚として増やす機能を持っています。
増える、という点で森と鏡は似ているように思いその考えから「増えたらどうなるのか?」ということへフォーカスすることになりました。
同質のものが増えると環境が作られるのではないだろうか、と想像を膨らませつつドローイングを始めます。
最終的に、ドローイングはこのような図像になりました。
映像内の着物の柄のパターンや森の増殖などからインスパイアされ、このイメージへと辿り着きました。
朱に交われば赤くなるという言葉がある通り、周りの環境に人は影響を受けるのではないだろうか、と思います。

 

対談者プロフィール 
小松瑞紀

 
1996年   東京に生まれる。
東京在住。
東京造形大学絵画専攻。
視覚から受け取る色や形から意味を囲い、言葉や文字にすること、逆に言葉や文字からモノやコトを想像する際に起こるイメージのズレや共通点への興味をもとに、絵画や立体作品、写真や文章を中心とした制作活動を展開。制作全体を通して対象を囲い意味付けすることの妙について模索している。
 
 
作品

「ごりんごりんご」size:F6 2019
横向きの筆致に対し白い枠線を指定することで視覚へアプローチしている。
制作の発端はスーパーでエスカレーターを下がり食品コーナーへおりていく時、りんごの山が遠くからではりんごだと判別出来ず、赤い大きな何かに見えた事が始まりだ。対象との距離で物の輪郭が曖昧になったり、解像度が低くなったり認識を誤ったり、判別出来なかったりと、この世は輪郭を定めなければ認知が困難であるとその時感じた。この作品は多くのサンプルの一つとしてりんごを使った。その他グループであったり、物であったり、概念であったり、様々なものに変換できる。ボーダーをどの様に定めるのか、またボーダーをどの様に解釈するのか試行錯誤し制作した作品。
 

「人ぬいぐるみ」 2020

人には影がついている。
ついているというより、もともと2つで1つの気もする。そうだ、人のぬいぐるみを作ろう。
 
 


「にんじん」写真作品

 

 
 

「島」写真作品